両声類への所感

急に書きたくなったので書く

※ここで記載する「両声類」は、女性らしい声を発することができる男性を示すものとする

「両声類」という造語は、ニコニコ動画の「歌ってみた」界隈で生まれた言葉だと認識している。有象無象の歌の上手い人たちがしのぎを削る歌ってみたにおいて、性別を超越した歌声というのは非常にインパクトのある個性となり得た。

歌ってみた黎明期は視聴者に男性が多かったこともあり、いわゆる「イケボ」なんてものはあまり望まれていなかった。そこで大半の男性歌い手はJAM Projectなどの男性ウケする熱い曲を歌ったり、替え歌動画を投稿して笑いを誘ったりしていたのだが、一方で女性ボーカル曲をそれらしく歌うこともアプローチの手段の一つとなったのではないだろうか。

両声類が再び着目されるようになったのは、バーチャルYouTuberの隆盛に伴った「バ美肉おじさん」の誕生がきっかけだった。こちらもやはり需要に応える形だろう。美少女のフォルムからおっさんの声が聞こえるより、ちゃんと女性らしい声が聞こえてくれたほうがウケがいいし、しっくりくる。
こうしておっさんが美少女のフォルムにそぐわない声でおっさんの視聴者を呼び込み、おっさん同士盛り上がるという優しい世界が形成された。

Twitterで両声類と検索すると、両声類を名乗るアカウントが多数表示される。nana musicのアンケートでは両声類を「知らない」と答えた人はわずか3%という結果も報告されている(2018年)。興味を持たれているかどうかは別として、両声類という用語自体はインターネットにすっかり浸透しているようである。


この文章を書いている私自身もかつて「両声類」と呼ばれていた。

私は歌ってみた活動を始める前から女性らしい艶のある声を出すことに執着していたのだが、それは思春期の声変わりがきっかけだった。幼少の頃から歌が上手い、声が澄んでいて綺麗だと評判だったのだが、声変わりによって一般男性よりも低い地声になってしまった。当然女性ボーカル曲を思い通りに歌うのも難しくなってしまったため、家で曲を流しながらひたすら口ずさんでいた。今の歌声は、その頃の執着が脈々と継続されてきた結果だ。

あまり両声類を自称してこなかったせいか、オフ会などで顔を合わせてから初めて男性であることを知った方とも何回か遭遇した。皆決まって脳が破壊された顔をしていた。本当の性別に気づかれないほどの声であるというのは、両声類としては名誉なことなのかもしれない。興味があったらぜひ動画とか開いてくれたら嬉しいです(ダイレクトマーケティング)


両声類を自称する方でも正直「男が無理して出している声だな……」と感じられる声もある。女性らしい声が出せているかどうかは別として、コミュニティへの帰属意識を持つために両声類を名乗っている方も少なからずいるようである。まあこんなことを実践する時点で異常性癖者への始まりみたいなものなので、仲間がいないとやってられないという気持ちもわかる。

個人的には両声類を目指すことはあまり薦めていない。この感覚を言語化するのは難しいのだが、こういう異常性癖活動は後戻りできなくなってしまった人が突き抜けるためにやるものであり、性別の壁を越えるなんてややこしいことはやらないでいいに越したことはないと思っている。進んでマジョリティから逸脱する行為は、物珍しさによる承認を得られるか、より孤独感に苛まれるかの諸刃の剣だ。

私が抑止したところで、それでも両声類を目指す人は目指すのだろう。今や男性が「かわいさ」を積極的にアピールすることも珍しくなくなった。男性としての魅力が乏しく、実社会で冴えない人生を送っている人間にとっては、両声類が自らの魅力を引き上げる属性となり得るのかもしれない。