「虚栄の市」に魅了された、ある愚者の記録

大嶋啓之さんの主催コンサート『Gathering at the Vanity Fair』を鑑賞させていただました。

正直なところ、大嶋さんのご活動にはあまり詳しくないままにコンサートに臨んでしまいました。初めてお名前を認知したのが「さよなら20代製作委員会」のコンピレーションアルバムに名を連ねていたときで、その時の参加曲『レベル30』はコミカルな感じだったので、面白い感じの曲を作る人なのかなあと漠然と認識していました。
その後ボーカルを担当されたkidlitさんきっかけで『epitaph』を購入し、大嶋さんの基軸の一つである退廃的な世界観にどっぷり浸らせていただきまして、そこから少しずつ存在を気にするようになりました。

今回は『天穂のサクナヒメ』のBGMも演奏されるとのことで、コンサートに向けてゲームを購入してプレイしたりもしました(米作り、やることが多い…!)(変拍子マニアなので『谺 ―こだま―』は特にツボでした)。


そんな感じでライトな気持ちでコンサートを迎えたのですが、蓋を開けてみると奏者さんたちの熱量が圧巻で、1曲目から引き込まれてしまいました。全然知らない曲でも音色と動きでここまで魅了されてしまうもんなんですね。もちろん曲が良いというのもあるんでしょうけど。
1曲目の演奏後に大嶋さんが現れて司会をこなすんですが、とてもコンサートとは思えない緩い感じで飄々と進行するもんですから、会場が一気にアットホームな雰囲気になるんですね。この奏者さんの熱さと大嶋さんの緩さで観客の心を徐々に掴んでいったように思います。

開演前に撮ったステージ

コンサートはニ部構成になっていて、第一部がインスト曲でした。コンサーティーナというアコーディオンに似た楽器(カッシーワさんが手に持っているアレの元ネタ)が編成されているのが異色だったんですけれども、レトロで温かみのある音色が大嶋さんのノスタルジックな楽曲をさらに彩ってくれるんですね。このコンサーティーナとバイオリンの掛け合いがまた良すぎて……良すぎるんですよ……!コンサーティーナをフィーチャーして第一部のプログラムを組んだ大嶋さんのセンスを讃えるしかないです。
他にもバイオリンはエレアコ仕様で音色に歪みを与えられたり、ベースはフレットレスという音程の境目がないタイプだったり、パーカッションは様々な打楽器を取り揃えて要塞を築いていたりと、少ない編成ながらも多彩な音を楽しむことができました。

休憩を挟んで第二部はボーカル曲メイン。前半はkidlitさんがピアノを弾きながらボーカルを担当されました。『水の中の永遠』の生演奏、変拍子マニアとしては感涙でした。ライブで変拍子曲って奏者さん泣かせのわりに観客もノリを合わせるのが難しかったりして敬遠されがちなので、選曲してくれて嬉しかったです。
後半曲のボーカルを担当された片霧烈火さんの歌声がパワフルで驚きました。もうだいぶお年のはずなのになんであんな若々しい歌声が出せるんですか??

ラストの『ヤナト田植唄・巫 ―かみなぎ―』は出演者の皆さん総出の大団円でした。合いの手を入れたり、大嶋さんと一部の奏者さんが観客席を一周したりして、まさにお祭り騒ぎといった感じで楽しすぎました。演奏後は自然とスタンディングオベーションになったんですが、まあそりゃそうなりますよね。

このコンサートの良いところの一つとして、披露された曲目でアルバム制作もしてくれていているので、購入すれば曲を聴きながらコンサート当時を思い返すこともできることなんですよ!最高か???
行けなかった人たちも今からCD買いましょう!そして私の味わった興奮を追体験しましょう!

(ギターを担当された暁さんがちょうどいいまとめ方をされていたので勝手ながら引用させていただきます)


今回のコンサートの解説等が掲載されたファンブックにて、大嶋さんの思想を垣間見ることができました。ここで詳細に語ることは控えますが、大嶋さんもきっと「澱んだ感情を美しい音楽に昇華させる」タイプの作家さんなのだろうという印象を受けました。そうでなければ、初めての主催コンサートに「Vanity Fair (=虚栄の市)」という自嘲めいた用語は使わないと思うのです。

しかし私たちはそんな「虚栄」に触れ、勝手に楽しんだり涙を流すほど感動したりしてしまう。これを同じように自嘲するなら「愚か者」なのでしょう。
でもそれでいいんです。愚者にはそのような刹那の喜びを噛みしめる時が必要なのです。有事になれば真っ先に目の敵にされる、そんな虚しくも儚い祭典を、尊ぶ必要があるのです。


一つだけ心残りがあるのですが、本当はこういった楽曲が好きそうな友人を誘っていたのですが、直前になって体調を崩して行けなくなってしまったんですね。
なので、あの、その友人の無念を晴らすためにも……2回目の開催を是非ですね……お願いします!!!