美しい思い出は美しいままに

『Open Air CINEMA / whoo』 所感記事です。

音楽家のwhooさんが『whoo』としての活動終了を宣言したのが今年の初めのことだった。そしてそれをきちんとwhooさん自身の言葉で伝える場として設けられたのが、この映画館での上映イベント『Open Air CINEMA』だった。

楽曲や映像は上映日の前日まで制作が続いたり、当日ギリギリのギリまで調整されたりしたらしい。本当にお疲れさまでした……


オープニング映像として、ニコニコ動画等でこれまで投稿されてきた動画を時系列順に振り返る映像が流れた。正直ここだけでもう情緒が揺さぶられた。

続いて書き下ろしの新曲のMVが6作、既存曲のMVが2作上映された。『Close to You』『The Sea』『Love and Hate』『クジラ(制作途中)』『ice』『KAREIDO』『I Can See The World』『春を泳ぐ』。途中『Fireworks』『トラベリングムード』のインストアレンジを挟んだ。ただひたすらに美しい、美しい時間だった。

映像は一旦終了し、whooさんが壇上に上がりこのイベントについて少しだけ語り、そしてアコースティックライブが行われた。映画館でのライブというのも心地の良いものだったけれど、whooさんが独りで壇上に上がるには空間が広すぎたかもしれない。

最後にエンディング映像。これまでのイラストによるものではなく、whooさん自身が登場し、古びた部屋の一角でギターを鳴らす映像だった。whooさんは「少しだけ流れます」と仰っていたが、10分以上は流れていたように思う。少しの感覚がおかしい。
 

すべてが終わった直後、率直に書くと「推しのバンドの解散ライブを見に行った」気持ちに近いような、楽しさとも苦しさとも言い難いなんとも言えない感慨があった。ありがとう。これが一番近い。ありがとうございます。
インターネット発の創作者さんというのは儚いもので、消えるのも生まれ変わるのもいつの間にかという方がほとんどなので、こうやって明確に区切りをつける場を設けてくれたwhooさんはなんて誠実なんだろう、と思った。

上映は1日に昼夜2度行われ、私は2回とも見たのだが、1日で飲み込むにはあまりに圧倒的な情報量で、正直もう新曲のフレーズが全く思い出せない。記憶力が無さすぎて辛い。あと5回くらい見たい……


創りあげた作品が、いつまでも人々の思い出に鮮やかに残り続けるというのは尊いものだ。だが、創作物はどれだけ時が流れても不変でいられるが、創った人間はそうはいかない。過去のアーティストの幻影を追い続けるファンと、それを苦々しく感じてしまうアーティスト本人、という構図は今までもたくさん観測してきたが、whooさんも例外ではなかったのだろう。

whooさんはこの上映イベントで『whoo』というキャラクターを美しく葬り去ってみせた。上映の合間のトークで「音楽は人に見せられない醜い感情も美しく昇華することができる」という趣旨のことを仰っていたが、まさにその通りだと思った。美しい作品を創り上げるという矜持は、きっと『whoo』でなくなっても変わらないのだろう。

この日でwhooさんの『whoo』としての活動は完全に終わり……とはならないが、大きな区切りの日となった。インターネットで独り音楽活動を始めた『whoo』は実体を失い、私の思い出の中に確かに刻まれた。美しい思い出が、美しいままに。



(最後にいっこだけ!OPとEDで『Travel In Time』を取り上げていただきありがとうございます!あのリフがたまらなく好きなので大変興奮しました!ありがとうございます!ありがとうございます!)